棚を作った話
2000年8月


 棚を作った。
 高さ、幅ともに約2メートルの棚を、いきなり2個である。

 '97年に1年間職業訓練校に通い、木工(おもに家具)の基礎をかじった。このとき、棚やらテーブルやらを作ったが、卒業後、手芸店「ミルキーウェイ」をひらいてからは本格的な木工はまったくやっていなかった。大型の電動工具(しかも整備のいいもの)を使う機会を失ったことと、布を商うという性質上、鋸くずや埃を極力店内に持ち込みたくなかったことがおもな理由である。
 店のオープンから2年あまりが経って、商品の量が何倍にもなった。仕入れを増やす必要上、おカネもない。だいいち、この布を陳列するための、高さ60cm、奥行き22cmなんて都合のいい棚は売っていない。そんなことで、電動丸のこと電気ドリルとわずかな手工具を駆使して、棚を作ることになったのである。

 訓練校時代に作った棚の、幅だけ変えたものにするつもりだったのに、幸か不幸か当時の図面は捨ててしまっていたので、新しく設計図を引くことにした。せっかくだからと、細かいところはあれこれ変更した。全体に「改良」になった...はずなのだが...。
 郊外の大型ホームセンターで、パイン集成材を買い求める。3メートルを超す材木もあって、クルマに積めないので配達してもらう。
 材料を切り出し始めてみると、計算ミスというか、こまごましたところで材料が足りない。はるばる買い足しに行くのも面倒だし、配達料をまた払うのも嫌だったので、ここで更に設計を変更して、無理やり足りるようにしてしまう(^^;。

 電動工具を使えば、びゅ〜ん、と素晴しいスピードで作業が進む...なんて思ったら大間違いである。強力な分、ちょっと手元が狂えばエライコトになってしまう。それで、材料を切ったり、穴をあけたりするたびに、丁寧に寸法を計り、作業台に材料と治具(じぐ)をがっちり固定して、やっとこさ「びゅ〜ん」となる。  治具というのは、材料を正確に加工するための、だいたいがちょっと不思議な形をしたパーツだ。正しい位置に固定して、この治具に沿って工具を滑らせて使う。
 とにかく、この材料や治具の固定が面倒くさい。同じ大きさの棚板を6枚切り出す、なんて作業なら、据え置き型の大きな機械ならものの数分で終わる。ところが、手持ちの道具だけでは、1枚について数分ずつかかることになるのだ。しかも、連日30度を超える炎天下での作業が強いられた。まぁそれでも、部品の加工を如何に丁寧に、如何に正確にできるかが出来上がりを左右するから、へろへろになりながら5日かけて部材を揃えた。

 部材さえきちんと出来れば、あとは市販の組み立て家具とたいして変わらない。順調にゆけば、1、2時間もあれば十分だ。しかし、世の中そんなに甘くはない。市販品にはまずあり得ないハプニングが、自作だとよく起こるのだ。穴の位置が正確に1cmずれているとか、加工した筈の背板が1枚足りなかったとか...。そうして、夜中だというのに完成予定時刻は平気で1時間ずつずれてゆく...。
 結局、組み立てて設置し、接着剤を乾かし、きれいに拭きあげて商品を収めるのに2晩かかった。材料の購入からつごう1週間で完成した勘定になる。それでもばたばたとけっこう忙しく、とうとう制作途中の写真は1枚も撮れなかった。商品を陳列する棚の不足は本当に深刻だったので、棚が出来上がるやいなやたちまち商品が詰め込まれてしまった。完成した「空の」棚さえ写真に残せなかったのがちょっと悔しい。
 



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